あなたが生まれるまえ、
あなたのおかあさんとおとうさんはとってもなかよしでした。
おかあさんとおとうさんがなかよしでないと、
子どもは生まれてこないのです。
だって、もしもふたりがケンカばかりしていたとしたら、
あかちゃん…つまりあなたはあんしんして生まれてはこられないから。
かみさまは、
ほんとうになかよしの女の人と男の人にだけにしか、
あかちゃんをくださらないのです。
…ずっとおおむかしのはなし。
もともと人間は女の人と男の人がふたりセットになっていて、
それでひとり、だったんだそうです。
女の人と男の人がせなかでくっついていて、それでひとり。
そういうふうにかぞえていました。
ただ。
人間は「ひとり」だけどじっさいには女の人と男の人と、
ふたつの心をもったそれぞれがくっついているから。
たとえばのはなし。女の人がトイレに行きたいと思っていても、
男の人はさっきおしっこしたばっかりじゃん…といらいらしたり。
男の人がおなかすいた、ごはんが食べたいと思ったりしても、
女の人はさっきおやつたべたばっかりじゃん、
これいじょう食べてふとりたくないのよ!と思ったり。
とにかく女の人と男の人はいけんがあわないこともおおくて、
しなくてもいいケンカをしてばかりいました。
たんじゅんに男の人と女の人がせなかでくっついているすがたでは、
しごとやそのほかいろんなことをするのにふべんなこともおおくて。
そのようすをごらんになったかみさまは、
これではいかん…そうお考えになって、
せなかでくっついている男の人と女の人を切りはなし、今のみなさんが知っているような、
男の人と女の人のすがたになりました。
(参考:山本直英著「ふたりのはなし」童心社刊)
http://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494001538
そして、女の人と男の人はそれぞれひとりぼっちになってしまいました。
だけど、もともとはせなかあわせにくっついていていっしょだったので。
人間はさびしくなってしまうと、
もともとくっついていたはずのあいてを、
しらずしらずのうちにさがすようになりました。
もともとくっついていたあいて。
それがあなたのおかあさんとおとうさんです。
おかあさんもおとうさんも、
小さいときからじぶんがくっついていたはずのあいてを、
じぶんでも気づかないうちにさがし続けていました。
ずっとずっとほんとうはくっついていたであろうあいてを、
おたがいにさがしていて…。
あるとき、町を歩いていたらふたりはぐうぜん出会って、
ああ、この人だと思いました。
そのことを「こい」(恋)といいます。
ほんとうはひとりの人間としてくっついていたはずのふたりだから。
出会ったとたん、男の人も女の人もどきっとしました。
そしておたがいがおたがいをすきになってなかよくしよう、そうきめました。
…ほんとうはくっついていたんだよね。
女の人と男の人はむかしふたりがくっついていたはずだったことをおもいだして、
もういちどくっついてみることにしました。
ふたりがなかよくくっつくことを「セックス」とおとなはよんでいます。
もともとはせなかでくっついて、それでひとりの人間だったふたりがくっつくと、
ふたりはものすごくあんしんしたり、
しあわせなきもちになったり、さらにはすごくきもちよくなったりできます。
そうしてなかよくくっついていたから。
くっつきたいくらいなかよしの男の人と女の人だから。
なかよくしてなかよくしていっぱいくっついて、
あかちゃんが生まれました。
そのとき生まれたあかちゃんが、今のあなたです。
あなたが生まれた日、
おかあさんもおとうさんもほんとうにうれしくて、
とてもしあわせな気分になりました。
そして、もっとなかよくしよう、
いっぱいくっつこうねとやくそくしました。
もしかしたら。
あなたのおうちではおとうさんとおかあさんがなにかのりゆうで、
今はいっしょにくらしていないのかもしれませんね。
あるいは、おじいちゃんやおばあちゃんなどのおとなとくらしている人。
じどうようごしせつ(児童養護施設)などでおともだちといっしょにくらしている人も、
いるかもしれません。
だけどね、しんぱいしなくていいんだよ。
あかちゃんが生まれるためには、
ぜったいに女の人と男の人がなかよくくっつかないといけないのです。
おおむかしにくらべれば、今はべんりなどうぐがいろいろはつめいされ、
人間のしごとやしゃかいのしくみもものすごくかわりました。
ただ、あかちゃんだけはべつ。
あかちゃんだけはおかあさんとおとうさんがおたがいをすきだと思って、
おたがいをたいせつにして、
なかよくくっつかないと生まれないことに決まっているのです。
それはむかしから決められていることで、
これから先、たとえば人間がじゆうに宇宙に行ったりできるようになっても、
かわらないと決まっています。
だから。
今はりゆうがあっておかあさんやおとうさんといっしょにくらせない人も、
またはいっしょにくらしてはいても、
おうちでおかあさんとおとうさんがケンカばかりしているので、
毎日悲しいなあ、つらいなあと思っている人も。
少なくとも、あなたが生まれてきたときには、
おかあさんとおとうさんはおたがいのことがだいすきで、
とってもなかよくしていました。
女の人と男の人、つまりおかあさんとおとうさんがなかよくしないと、
あかちゃんはぜったいに生まれてこられないのです。
あなたが生まれたとき、
おとうさんもおかあさんも本当にうれしくて、
そしてふたりがとてもなかよしだということを、
あらためて心に強くかんじました。
あなたが生まれたことで、ふたりはほんとうになかよしなんだということを、
ほかのおおくの人たちも気づいて、
あかちゃんのあなたをだっこするおかあさんとおとうさんに、
おめでとう、そういっておいわいしました。
まだほんとうにちっちゃいあかちゃんのあなたを見て、
目がおかあさんににているとか、口もとはおとうさんににているとか、
げんきななきごえがおじいちゃんににているとか、
わらうすがたがおばあちゃんににているとか…。
そういいながらおいわいしました。
ほんとうは生まれたばかりのあかちゃんは、みんなまっかなかおをしていて、
(だから「あかちゃん」っていうんだよ)
だいたいおなじようなかおをしているものなんだけど、
あなたが生まれたということがみんなとってもうれしいから、
ついついまわりのいろんな人ににているように思えてしまうのです。
それくらいみんなあなたが生まれてくることを楽しみにまっていて、
ちゃんと生まれてきたことがほんとうにうれしくてたまらなかったのです。
おかあさんとおとうさんはそのとき、ほんとうになかがよくて、
なかよくくっついたから、それであなたは生まれました。
あなたが生まれたとき、おとうさんもおかあさんも、
ほんとうにしあわせなきもちになって、
あなたが生まれてくれてよかったと、そう心から思いました。
生まれてくれてありがとう。
ふたりは心からうれしくて、あかちゃんのあなたをいっぱいだっこして、
かわいいね、そうおもいました。
だから。
あなたはたいせつな人なんだよ。
おかあさんとおとうさんが本当になかよくして、あなたは生まれました。
もしも、なにかくるしくて、どうしてもくるしくてくじけてしまいそうなとき、
あなたがこのはなしを思い出してくれたらいいな。
まえだ ほのか
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